第2章『次のエースはやっぱり、優』

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「もう、辞めるテニスは。でも、アンタに負けたんじゃないから。私が勝負を降りる。だからアンタは一生私に勝てない」  さすがに不穏な空気を察知し、康太は「おーい、蝶子、ちょっとボレーの練習させてくんねー?」と声をかけた。    中島の声の調子から、今の会話が漏れていないことが分かり、蝶子はほっとする。   「分かった」    強がってみたものの、はっきりと自分の負けを認めた悔しさから鼻の奥がツンとして、目をつぶったまま歩き出した。      次の瞬間――鈍い音が彼女の後頭部を襲った。    蝶子の目の前は急に真っ白になり、とても立っていられず、膝から崩れ落ちた。   「えー……。ちょっと、蝶子?」 「きゃーっ。血、血が出てるよ!」  慌ただしい声に、優は顔を上げた。だが、蝶子の回りには既に人だかりができており、地面に横たわる彼女の足しか見えなかった。   「優ちゃん!」と、駆け寄ってきたのはミコトだった。  顔面蒼白で、優の肩に顔を埋める。    蝶子にのそばには「どうしよう。うちが、ラケットで蝶子のこと」と手を震わせ力なく座っている部員が居た。その子を慰めるように肩を抱く部員も居る。   「とにかく先生呼んでこい」中島は指示を出す。  女子部員の一人が駈け出しながら「はい、あ、あたし、行ってきます!」と答えて、コートを出て行く。   「蝶子、蝶子」と泣き出す部員も出始める。  グリーンのコート上はパニックに包まれていた。    優はゆっくりと蝶子に近寄った。  部員の輪の外から顔を覗かせると、蝶子はまるで人形の様にぐにゃりと腕を曲げて、うつ伏せに倒れていた。   「蝶子……」
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