第3章『しばらく練習はストップする』

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 優は病院へ行かせてもらえず、校長室に呼び出された。    顧問の袴田は、 「もし仮に、事故が公になったら、学校の管理体制に問題があったのではないかと騒がれるかもしれない。しばらく練習はストップするだろう」  と告げた。 「え? それは、嫌です」  関東大会は来週に迫っていた。今が大事な時期ということは誰もが承知している。今年は稀に見る好成績で、10年ぶりのインターハイ出場も夢ではなかった。    校長は、合いの手を入れるように「それじゃあ、忘れてくれるかい?」と口を出す。   「忘れる?」 「あのな」と袴田は手を伸ばして優の肩を抱く。「蝶子は、自分のラケットに躓いて転び、頭を打ったことにしてほしい」 「でも……」  戸惑う優に袴田はダメ押しの一手を浴びせる。 「蝶子が自分で怪我したことにしてくれたら、必ずお前を団体戦に出場させる」  3年生も出場する中で、もちろん優はメンバーに選ばれていない。  2年の姉の蝶子ですら出られない大会で、自分がコート上に立てる。その時を思い浮かべると、優は武者震いする思いだった。    初めて、姉に勝てる!      黙っていればいいだけのこと、この交換条件は難しいことでもなさそうだった。  きっと蝶子はすぐ元気になって戻ってくる。そのとき、自らの怪我のせいで練習を停止にされていたら、責任を感じて、耐えられないだろう。   「分かりました。親にもそう伝えます」  物事を都合よく解釈していることも理解しつつ、優は了承してしまった。 『私はアンタみたいに汚い手は使えない』  蛾に喩えて蝶子が言ったことは真実だと優は思った。
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