第3章『しばらく練習はストップする』

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 万が一の事態など起こるはずもないと高をくくっていたにも関わらず、人の命はあっけない。  優は葬儀の後、すぐに自分の部屋へと逃げ込んだ。  ドアを強く閉めると、机の上のブレスレッドが音をたてて崩れ、床に散らばった。    偶然にも紐が切れて、一粒の丸い石が優の足元へと転がってきた。    優は拾い上げ、指先で転がす。 「忘れなきゃ、忘れなきゃ」  両親は蝶子の死因に不信感を抱き、参列した部員、袴田にも詰め寄ったが、誰一人として口を割らなかった。    だから部員を裏切るわけにはいかなかった。でも、肉親を裏切ることも耐え難かった。    優は目をつぶり掌を強く握る。手の中にあるのは、心のバランスを整えるラベンダー色の石、クンツァイト。    パワーストーンは優が高校受験の時にお守りとして買ったことが始まりだった。  今まで幾度となく失敗を繰り返してきた優は、石にすがらないと自信が持てなかった。  石の力もあり、優は見事に合格。以来、事あるごとに石の力に頼ってきた。    だから今回も石は力を貸してくれるはずだと信じてやまなかった。   「助けて。忘れなきゃ!」  優が叫んだ瞬間、石がパンと砕けて優は意識を失った。  そして記憶までも――。
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