96人が本棚に入れています
本棚に追加
/289ページ
敏秋が、こうして惨めに這い出たように。
「ゆき、ね……」
地上に出れば、土砂降りの雨に容赦なく背中を叩かれた。潰れそうに身体が重い。彼女を二度も置き去りにした罪の意識が、敏秋を侵す。
降りしきる雨の中で、彼は一人むせび泣いた。
「ゆきね……雪音、っ――」
生まれつきの茶髪を、きれいな髪だといってくれた。決して愛想がいいとはいえない敏秋を、それでも彼女は慕ってくれた。
それなのに自分は、なにもしてやれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!