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叱りつけるように、雨は敏秋に降り注いだ。気力も体力も、根こそぎ奪うような雨だった。いっそ、命まで持っていけばいいと思った。
そこで敏秋の思考は、壊れてしまった。
いや、命令を破って今日ここに足を向けた時点で、もう彼はそれまでの彼ではなかった。すでにその時点で歯車は壊れて、いま、完全に狂ってしまったのだろう。
思考が逆に回りだす。命令など聞かなければよかったと。たとえ共倒れになろうとも、あのとき雪音に手を差し伸べるべきだったと、ひどい後悔の念が心を引き裂く。
「命令、なんて……!」
星も月もない空の下、敏秋はただ慟哭した。
やがて雨がやみ、翌日の夜になって土蜘蛛を退治にきた仲間たちに発見されるまで、彼は泥の中で眠っていた。
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