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ネロにだけ聞こえてきたモスキート音。その音が時刻を告げる鐘の音に故意に混ぜられ流されているのは間違いなかった。
音の発生源に笑みを浮かべ笑っている男がいた。頭に角が生え、肌が緑色の鱗で覆われたその人物は、まるで龍のようだ。
「上手くいっているようだな。藤咲」
「もちろんよ。うちのお抱えの教授(プロフェッサー)が造った記憶消去音発生装置なんだから。ファーザー龍(ロン)」
ワニのような口をした殺し屋の女性、藤咲は耳栓を外して言った。自分達が間近で音を聞いたら記憶を失ってしまう。それを防ぐ為だ。全ては、彼、マフィア『ドランスファミリー』のファーザーである龍(ロン)の計画であった。
「街の鐘の音に紛れて、この音を流せば周囲の人は記憶を失うしかけだ。記憶を失わせている間に行った犯罪は全て忘れられる。これを使えば、警察の目を気にすることなく強盗でもなんでも出来るだろう。我ながら素晴らしい計画だ」
「・・・ファーザー龍。いつものことながら、素晴らしい計画です」
龍を煽り立てるのは彼の護衛としての人物、キツネの仮面を被った元傭兵の不破であった。
「ここ、数日に渡り何度か実験を繰り返してきましたが、住民に気付かれた様子はありません」
「だだ、ファーザー。警察が稲葉に捜査協力を依頼したようです」
稲葉の名前が出て龍がピクリと眉をつり上げ反応した。
「稲葉だと?あの白ウサギ、ビューティークール探偵稲葉が動いたのか」
「はい。彼女の推理力なら、私達の計画がバレるのも時間の問題かもしれない」
ドランスファミリーにとって、稲葉はある意味、天敵のようなものである。毎度、毎度、彼女によって彼らの計画は妨害され続けてきた。もし、今回も彼女が動けば早期に真実が暴かれるかもしれない。龍は表情を籠もらせ考える。
「確かに、由々しき事態だろう。だが、今、稲葉が警察署に出向いているということは、事務所には所長の色里と助手の八重しかないというわけだな」
「そうなりますね」
稲葉はあまり他人と行動を共にするのは好まない性格だった。だから、警察から依頼があった時は、基本、単独で動くようにしている。事件に巻き込まれないようにする為の彼女なのり心遣いかもしれないが。
しかし、今、それはチャンスだと龍は笑みを浮かべていた。
「俺は今、奴らに一泡吹かせる方法を思いついた」
「一泡?」
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