destiny 【運命】

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「…綾子さ~、墓場まで持って行かなきゃいけないような秘密ある?」 手持無沙汰にプーさんのボールペンをクルクルと指で回し、ポツリと呟いた。 「はっ?…何で?」 「…いや、何と無く。…あ、よく考えたら綾子にあるはず無いね。黙ってるのが我慢できなくて、結局カミングアウトしちゃうような女だから」 「なに―ッ!そんな事ないねっ。あるよ、私にだって秘密。そこの冷蔵庫に入ってた唯の白くまくんアイス黙って食べた事とか…」 ふて腐れて口を尖らせる綾子。 「えっ!?嘘っ!……あーーっ!?ホントだっ、無いっ!私の白くまくんがっ!」 血相を変えて冷凍庫を開けた私は、頭のてっぺんから憤然の声を上げた。 「あと、患者さんから貰ったビアードパパのシュークリーム、唯の分も食べちゃったとか…」 「なに―っ!?ビアードパパのシュークリームをーっ!?…って、あんたの秘密、食べ物しかないじゃん。それを墓場まで持って行くつもりだったの?」 「そうだよ。悪い?」 勝ち誇った笑みを浮かべ、10年以上ぬるま湯にどっぷり漬かり素漬けになった能天気女が、フンっと高らかに鼻を鳴らす。 「ああ~…うん、悪くないよ、全然悪くない。むしろ、素敵だと思います」…つーか、既に秘密じゃ無くなったし。 時々思う… 綾子は過去の恋愛を…結城和馬を思い出し、心に刻まれた憂いが蘇ることは無いのだろうかと…。 綾子は罪悪感に耐えきれず、翔ちゃんに全てを打ち明けて今も共に生きている。 「秘密を墓場まで持って行く」と、人は冗談めかして言うけれど、誰にも言わず、リアルを知らないネット世界でも打ち明けず、本当に墓場まで秘密を持って行ける人は、一体どれだけいるのだろう。 それが出来る人…出来ない人… ―――私はきっと、綾子よりもずっと狡くて質が悪い。
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