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「休憩中に失礼しますっ。主任、澤原さん、救急搬送の依頼です!東名高速で6台の玉突き事故。当院で傷病者8名を収容、内2名が意識不明の重体ですっ!」
日勤スタッフの一人が、救急隊から送られた状態報告書を持って休憩室に飛び込んで来た。
その声で、私と綾子は同時に立ち上がり表情を険しくする。
「重体?それ、見せてっ」
綾子はスタッフが握るその紙を奪い取り、視線を落とす。
「胸痛…チアノーゼ…呼吸困難に頻脈か…ハンドルに上半身を挟まれたみたい…これ、たぶん血気胸起こしてるな…」
羅列された文字を見つめ、綾子が顔をしかめた。
「…ああ、ホント。…こっちは恐らく心タンポ。…マズイ、出血性ショック起こしかけてるかも…」
私は綾子の手もとを覗き込み、口もとを歪める。
「ドクターにはコールした?」
「はいっ、でも…一次担当の先生達は今、頭部外傷と喘息の重積発作の対応に回ってて。救急車が到着するまでには応援が来ます」
颯爽とした足取りで集中治療室に向かう私達の後ろから、追いかけるスタッフが緊迫した声を飛ばす。
「緊急開胸手術になるかも…私はオペ室と心外ドクターに連絡するから、唯はドクターが到着するまで指示お願い。…頼りにしてるから。外科のチームリーダーさんっ」
「了解。…頼りにされてるのは知ってる。20年前からね」
両手にディスポ手袋をはめ、無二の上司に「任せとけ」と、口端を上げた。
「心エコーと胸膜生検、胸腔ドレナージの準備してー。ダブルラインで輸血ジャンジャン行くよー!」
私はモニター、酸素、吸引などの搬送受け入れ準備をしながらチームスタッフ達に指示を出す。
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