深海魚と幽霊。

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東雲梓(シノノメ、アズサ)、彼女はそう名乗った。放課後の空き教室で僕は彼女から自己紹介を受けた。二人っきりである。女の子だ。女の子と二人っきりの状況なのにちっとも喜べない僕がいた。喜べるのなら、喜んでいたい。 「幽霊?」 そう、東雲梓の身体は半透明化しており、身体の向こう側が透けて見えた、それに着ている制服は一昔前の物だ。いわゆる、セーラー服というやつ。 「失礼なやつじゃのう。この小童が、儂の姿を見れることが幸せだというのになんじゃ、その態度は、ひれ伏せ、頭をたれて許しを乞え、この馬鹿者が」 めちゃくちゃ罵倒された。幽霊ということは間違いないらしい、非日常的な存在だった。幽霊だ。喜ぶよりも、恐れるよりも、受け止めることに精一杯でへらへらと笑うしかなかった。 「ふん、つまらんやつじゃ、久しく話せる相手を見つけてみれば、こんなモヤシとはのう、あー、マジで萎えるーじゃ」 と東雲が若者風に口調を真似た。 「ひさ、久しくって、お前、いつからここにいるんだよ」 「さぁ、わからんが、お前が生まれる以前ということは確かじゃろうな。記憶というものは消えていくしのう」 そうか、と、頷いて、僕は脱兎の如く逃げ出した。あんなに恋い焦がれた世界なのに、直面した途端に恐ろしくて逃げ出した。自分のチキンさに辟易するか、ここから先の道には進んでは行けない。回れ右、Uターンの標識が目の前に見える。が、しかしだ、ドンッと勢いよく扉が閉まった。ポルターガイスト現象と叫ぶ暇もない、 「別にとって食うわけでもあるまいし、逃げることはなかろう?」 背後から東雲が言った。振り返るとゆらゆらと揺れながら東雲がニヤニヤと笑っていた。 地縛霊なのだと、東雲は言った。 「ってことは、お前は、ここに縛られているのか?」 「そうなるのう。まぁ、学校の外に出たこととがないからわからんが、確かなのは儂がここで死んだことくらいか」 あえて表現を控えたのに、東雲はあっさりと言う。それりゃそうだ、幽霊になって出てくるんだからここで死んでいたとしてもおかしくない。一介の高校生には重すぎる内容だ。 「で、俺は何をすりゃいいんだ?」 「ん? 何がじゃ?」 「何がって、あんたは心残りがあるから、ここに残ってんだろ? その心残りの手伝いをしろとか言い出すんだろ」 そういうのは定石のパターンだ。幽霊と協力してなんやかんや
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