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と、手伝わされる物語なんてよくある話だ。自分が興奮していることに気がつきつつも僕は切り出した。さぁ、どんとこい。
「なんじゃそれは、心残りなんて何もないぞ。儂はここに居たいからここにおるのじゃ、それ以外に何がある。そもそも初対面のお前に頼み事をするほど図々しくないわ」
一気に突き落とされた。なんだそれは、幽霊がそこにいて、ボッチがいて、放課後の空き教室というお膳立てまでしておいて、何もないとはどういうことだ。的外れな憤慨をしたくなりながら僕はため息をついた。
東雲梓が不思議そうに小首を傾げた、よく見てみれば綺麗な黒髪だ。手入れは生前、かかさなかったんだろうな。
「なぁ、東雲、東雲さん? えーっと」
「ええい、まどろっこしい奴め、東雲でよい。で、なんじゃ、言うてみい」
「ときどきでいいから、話し相手になってくれないか?」
と、僕は的外れなことを言ったのだ。高校生になって初めて友達ができた。ただし幽霊の友達だった。ちなみにその申し出に東雲は大笑いしてくれた、腹を抱えて大笑いしながら頷いてくれた。たぶん、彼女もボッチなのだ。
ボッチとボッチは磁石のように引かれあうのかもしれない。
それから一カ月、僕は東雲と出会うようになった、彼女が現れるのは決まって放課後、あの空き教室だ。本人曰く、その時間でないと現れるというか、
「チャンネルのようなものじゃな、ラジオの信号を合わせるのにダイヤルを回すように、この時間のみが儂とお前が合致する時間なのかもしれんな。ちなみに、そこ、間違っておる」
東雲が言いながら、問題集の一番上を指さした。むうと僕は唸る。東雲梓は頭がよかった。欠け目なく、ひとしきり勉強した後、僕は鞄から取り出した漫画を開いた。
「うむ、面白いのう」
隣に寄り添うように、東雲が漫画を読んでいく。幽霊である彼女では漫画を持つことができないから僕が持ち、隣で覗きこむ形になる。当然、東雲と急接近するのだが、
「早く、ページをめくらんか。役立たずめ」
と、すぐに罵倒がとんでくるためムードもへったくれもない。こんな日々が続いていたけれど、ある日、突然、東雲と会えなくなるというわけもなく、チャンネルが合わなくなるというわけもなく、日々は過ぎ去っていき、東雲梓とは無関係に、その事件は起こった。
「この中に一人、泥棒がいます」
放課後の教室で担任教師が言った。
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