8人が本棚に入れています
本棚に追加
「バカな奴じゃのう。自殺することもなかろうに」
東雲梓が僕に向かっていった。チャンネルが合ったというより彼女と近しい存在になったということだろう。
「即死だったみたいだな」
と、僕は包丁が突き刺さった僕の死体を見下ろしながら言った。半透明になった身体を見ながら言う。幽霊になった。その実感は極めて薄いけれど、じきにわかるだろう。
「本当にバカなやつじゃ、学級崩壊を狙うなら、自殺するより、あと数人、殺せばよかったのではないか?」
「別に僕は人殺しになりたかったわけじゃないし、学級崩壊を狙ってたわけでもないさ、でも、同じように机を並べて勉強もできなったし、あの日できなかったことができたからよかったんだ」
「はっ、飛び降りか」
知ってたのかよと、僕は思った。そう東雲梓と出会った日、僕は自殺を考えていたのだ、遺書を用意して死ぬつもりだった。まぁ、東雲梓のせいで未遂に終わったわけだけれど、
「もう、こんな毎日は嫌なんだ」
この一カ月、本当に楽しかった、放課後、東雲梓と出会う時間のみが楽しみだったけれど、いつかチャンネルが合わなくなって東雲梓と出会えなくなるのが怖かった。深海魚のように闇に潜んで暴力に怯える日々に逆戻りすることが怖かった
たぶん、僕は東雲梓に恋をしていたんだと思う。東雲梓は僕にとっての指針だった進むべき道に続く道路標識というのはおかしな表現だけれど、失いたくはなかった。死んでしまえるくらい好きだったんだ。もちろん、本人には言えないけれど、
「バカな奴じゃのう。これでは漫画が読めんではないか」
漫画かよとツッコミつつ、僕は東雲梓の傍らに寄り添った。
最初のコメントを投稿しよう!