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二メートル程前方の、驚いた顔の少女。右方から迫り来るトラック。
少女が前方にいる、ということは無事に突き飛ばせたようだ。
なんだか妙な日本語になったが、まあいい。
重要なのは、我は少女を助けることができた。それだけなのだ。
大型トラックのスピードはかなりのものだ。これは十中八九助からないだろう。
未練はない、と言えば嘘になるが、最期まで人助けをすることが出来たのだ。
「………まあ、良い人生だった」
すまぬな、秋善。貴様に勉学を教えることは、もう叶わないだろう。
どうか、先に逝く我を許してくれ。
それを最期に、意識は飛んだ。
「ぐあっ……!?………」
突如襲いかかった頭痛。それによって意識は無理矢理目覚めた。
寝ていたのか?
いや、違う。
「そうだ、我はトラックに轢かれ、死んだはず。…?なんだ?声が高い?」
記憶が呼び起こされ、寝ていたのでは無いのが理解できた。だが、不可解な点が幾つか。
首を触る。なんだこれは、喉仏がかなり小さくなり、首も細くなっている。
「ふむ。指も細く、肌も白い。それに胸がある。」
まるで女性の身体のようだ。
もしや……嫌な予感を感じながらも、股間の位置に自らの右手を持っていく。
「…………ない」
間違いない、女性の身体になっている。どういうことだ、これは。夢でも見ているのか?それに、
「何処だ、ここは」
周囲を埋め尽くす、背の高い木々。なぜ我はこんなところで寝ていたのだ?
色々なものが、頭の中を走り回る。
「意味が分からない。なんだ?何が起きた?なぜ我は女性の身体に…我は死んだのではないのか?」
生きていて、しっかり意識もある。夢という可能性は否定したくないが、夢ではなさそうだ。
「落ち着け、まずは状況の整理だ。まずひとつ、我は死んでいない。いや、蘇った?ええい、整理しようにもわけのわからない事が多すぎる」
とりあえず求めるべきは、場所の把握か。可能性は低いが、日本の何処かということもあるやもしれん。
「だとすると、人に聞くのが一番なのだが、ここに人は居そうにないな」
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