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なんせ森の中だ。こんなところを好きでうろつく人間はそうはいないだろう。
「さて、どうするか。闇雲に歩き回るのは危険だが、かといって何時迄もここに留まる訳にもいかん」
そういえば、と思う。
服は学ランのままだ。多少大きく感じるが、着慣れているせいか、そこまでの違和感はなく、歩きやすい。
「これは幸運と捉えるべきだな。ベルトはもう少し締めておくか、今のままだとずり落ちる」
ベルトをしっかりと締め、考える。
これから自分がすべきことを。うーむ……まずはこの森からの脱出だな。場所の把握も大事だが、ここにいてはそれも叶わん。
「何か目印として使える物は………」
もし迷った時のために、目印として木に何かを巻きつけるなりなんなりしようと思った。だが、
「所持品は生徒手帳と定期券だけ、か。ふむ、これではどうしようもないな」
顎に手を当て、唸る。………歩くしかないか。
ここを人が通りかかる可能性はゼロではないと思うが、それを待っていては日が暮れてしまうかもしれん。
「どこに向かおうか。獣道も何もないから本当に闇雲に進むしかないが」
とりあえず、適当な方向に向かって歩く。
それにしても、何故こんなことになったのか。性別が変わっているのはもちろん、そもそも我は死んでいるはずなのだが。
「まったく、わけが分からないことばかりだ」
そうぼやきながら、高い木々の中を進んで行った。
かれこれ1時間は歩いただろうか、時計が無いから正確な時間は分からんが、恐らくそれくらいだろう。
「それにしても、出口が見えんな。下手をすると永遠に出られない可能性もあるぞ」
そこまで言って、止まる。
人の声が一瞬だが聴こえた。ついでに叫び声のようなものも。
「ふむ。方角は右だな。行ってみるか」
叫び声も聴こえたので、何かトラブルでもあったのかもしれん。今の我に何が出来るかは分からんが、困っている人間がいるのなら助けたい。
「あまり無駄な体力は使いたくないが、走るか。女性の身体になったのだから、走るスピードが落ちているのも充分にあり得る。急ぐことにしよう」
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