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「さすがに冗談がすぎるぞ。なんだあれは。」
あの後、声のする方へ走って向かった。女性の身体になったので身体能力は落ちていると思っていたのだが、
結果は逆。男だった時よりも身体能力は遥かに上昇し、身体はそれに耐えられるほどに強靭になっていた。
「かといって、筋肉がつき、引き締まっているわけではない。細くはあるがプニプニだぞ、どうなっている。」
って、違う。そうじゃない。
それよりも、信じられないような事が我の目の前で起きている。
「ドラゴンでいいのか?ちぃっ、本当に夢ではないのか?」
そう、声のした方へ行くと、ゲームやファンタジー小説なんかに登場するドラゴンが、馬車を襲っていた。
「しかもなんだあの騎士達は、まるで中世ヨーロッパのようだぞ。」
わけが分からない。ドラゴンと対峙する人間は騎士の格好をしているし、その騎士が守っているのは御伽噺のお姫様のような格好をしている。
まるでフィクションの世界に入り込んだような気分だ。もっとも、我が目にしているのは紛れもない現実なのだが。
どうする?騎士達は追い込まれているようだが、我が行ったとして勝てるのか?
少なくとも、今までの人生で負けたことはない。だが、それは相手が人間だったから。命を奪う必要はなかったから。
今回は命を奪わねば逆にこちらが殺される。
しかし、相手はドラゴンだぞ?人間とはわけが違う。勝てる見込みなど微塵もない。
あれと対峙しても無駄死にするだけだ……!
「………違う。勝てる勝てないの問題ではない。」
そうだ。十年前のあの日、決めたではないか。
『弱きを助け、強きを挫く』その言葉が最も似合う人間になろう、と。
「今の状況とは少し違うが、殺されかけている人間を見捨てるわけにはいかん。」
勝つのだ、あのドラゴンに。そして救うのだ、殺されかけている人間を。
大丈夫だ。さきほど走った時、全力を出さずに乗用車、いや、それ以上のスピードを出せた。身体もそれに耐えた。
ビジョンを思い浮かべろ。道筋を見つけろ。相手を殺す方法を考えろ。
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