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騎士が何かを言おうとしていたが、それを遮る形で質問を投げる。
色々と聞かれるのは面倒なのだ。我自身、何がどうなって此処にいるのかすら分かっていないのだから。
「へ?あ、ああ。確かに貴女の言う通り、この道を進めば森は出られる。」
「そうか、ありがとう。では、我は先を急ぐのでな、さらばだ。」
「ま、待ってく」
騎士が言い終わる前に、走る。にげるように走る。
ふむ、やはりかなり速い。我はジョギング程度のスピードで走っているつもりなのだが、ロードバイクくらいのスピードは出ているだろう。
さて、そろそろいいかな。
足を止めて、急ブレーキ。
視線は、あの木の上か。
「出てこい。我は逃げも隠れもせんぞ。」
我を尾けている者がいる。ちょうど、あのドラゴンを倒した時ぐらいからか。
気配は消えていたが、妙な視線を感じていた。昔から他人からの視線を受けていたせいか、人の視線に機敏になってしまったのか。
秋善もよく言っていたな。兄さんの容姿は人の視線を集めやすい、と。
ようするに、我は酷く醜い顔をしている、という訳ではないだろう。鏡を見た限りでは、そんな歪な顔はしていなかった。
閑話休題。我を尾けていた者が出てきた。降りてきた、と言うべきだが。
こちらに向かって歩いてくる人物は、黒いロングコートのような服に身を包み、フードを深く被っている。
思い切り不審者だな。フードを被っているせいで顔も見えぬ。
「我に何の用だ、不審者。」
腕を組み、言う。なんだ?我は尾けられるような事をした覚えはないぞ。
「不審者って、まあいいや。えーっとだな、あんた、さ、ちょっと気絶してろ。」
最後の言葉は下方から聴こえた。下方から聴こえた、ということは。
「突然腹を殴ろうとするとは、あまり感心できんな。」
不審者の拳を押さえながら、声を出す。これはやり返しても正当防衛だな。男の弱点を攻めさせて貰うが、恨むなよ。
狙うは股間。相手の拳は左手で押さえているから、空いているのは右手と両足。一番近いのは、左足ッ!!
「おいおい冗談だろ。けっこう本気だったヴぇろ!!?」
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