三章

11/26
前へ
/87ページ
次へ
「リシアをそっとしてあげられないのか?」  ハーティが掴んでリシアから引き離す。セルシオは部屋の奥に投げ捨てられた。ハーティがリシアを抱える。 「リシアを離せ! 下ろせ! 僕のだ、返せ!」  セルシオは立ち上がろうとしたが、床に叩き付けられた身体が言うことを利かない。 「少し、逆になれば解ることもあるだろ?」  ハーティが部屋を出てしまう。テトラも逃げるように外に出た。 「あ……!」  軟禁部屋の扉が閉まる。扉は外からしか開かない。そう作り替えたのは自分だった。格子戸を壊すこともできない。セルシオは床に膝を着いた。何をされたのか理解するまで数秒の時間を要した。ハーティの頭の回転の早さは相変わらずだ。セルシオは子供の頃から劣等感に悩んできた。好きなことも好きと言えない我慢は決壊寸前だった。ハーティが居なくなり、我慢はなくなった。ハーティが邪魔だ。それは紛れもない殺意だ。同じ顔が酷く憎い。気持ち悪いほどに吐き気がする。リシアを愛するにはハーティは要らない。奪ったのだ。奪い返す必要がある。血縁など関係ない。セルシオには不要だ。両親が居なくても必死で生活してきたのだ。会議に出席がなければ誰かしら屋敷を伺いに来る。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加