三章

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 棚にあるランプの明かりが部屋を僅かに照らす。  セルシオは笑う。壊れた。狂ったのだ。  髪をかきむしる手が止まる。ブルーの瞳が据わる。  寝台に座り込み暫くランプの明かりを睨む。炎はゆらゆらとセルシオを挑発した。  リシアを壊される前に取り戻さなければならない。  セルシオは自分が正しいと呟き続けた。  正常も異常も区別がつかない。麻薬をやるよりも酷い思い込みが作る世界をセルシオは一人で歩く。誰も寄せ付けない。外部を遮断された軟禁部屋は膿を増幅させるには格好の場所となった。冷静になるどころか誇大妄想が爆発する寸前に留まっている。恐ろしいことにセルシオはなにも感じていない。セルシオの心理は赤い色で染め上がっていった。  炎と同じ色だ。セルシオは瞬く。リシアを妄想でなぶり殺して溜め息を吐いて。気休めにならない枕を叩きつけて突き上げてくる衝動を消す。  殺しはいけないと踏みとどまる反面で、頭は欲望に汚染される。  精神と言うものは形がないのだ。よくわからぬ論文を思い出す。考えてどうなるものかとセルシオは皮肉る。  セルシオは殴られた顔を擦る。鼻血が出ていた。そんなことに今更気が付いた。  幾分、落ち着いた。セルシオは横になる。
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