三章

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  2  リシアはゆっくり目を開ける。屋敷のリビングであった。傍らにテトラが居る。相変わらず眼鏡がアクセントだ。間近で彼女を見るのは久し振りでリシアは戸惑いを隠せない。  テトラの遥か後ろで様子を伺う男はハーティだろうかセルシオだろうか。  リシアには判断できない。  部屋に入り込んだ二人をリシアは見分けることができていなかった。  恐怖が分裂した。身体と思考がそう判断して気を失った。  ハーティから視線を背ける。反射的だった。 「リシア。怪我はない? お腹は空いていない?」  テトラが訊ねてくる。リシアは精一杯首を振る。久し振りに部屋から出たせいか落ち着かない。リビングが別大陸のように広い。 「ごめんなさいね。四日もあんな場所に押し込めて。ずっとセルシオと闘ってきたのよね」  テトラが頭に触れるのをリシアは拒む。身体も気持ちも追いつかない。整理の届かない領域でリシアはセルシオの影に怯える。 「大丈夫だよ。セルは閉じ込めたから。あとは君次第だ」  ハーティが口を開く。優しい声音は変わらない。セルシオではない。リシアは言い聞かせる。条件反射がリシアを蝕む。違うと強く思う。気持ちが追いつかない。リシアは身を縮めた。
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