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「ここから逃げたい」
リシアは迷わなかった。躊躇う必要もなかった。僅かだが信じたいという気持ちを持った。
「それなら話は決まりだ。明日の朝、発とう」
「仕事は?」
テトラが訊ねる。
「船のチケットを買った時に辞めてきた。退職金が出てる。あとは頑張る」
ハーティは言った。
セルシオとハーティは違う。リシアはゆっくりと理解し始める。だが、並ばれては見分ける自信がない。
「では、私は荷物を纏めてきますね!」
ネアがリビングを出ていく。ネアが失うものはなにもないようだ。言葉は嬉々としていて張りがある。この場に居る誰よりも張り切っていた。
「私は荷物はないから」
リシアはネアが用意した紅茶を飲んだ。紅茶に拘りはない。味はいつも通りしない。それでも匂いは確実に感じた。ひとりで飲む紅茶より美味しい。そんな気がした。
「テトラ。僕も仕度をしてくる。リシアを見ててくれ」
ハーティがリビングから出ていった。リシアはカップを置いていてチケット入りの封筒を眺める。
「船に乗ったことがないから楽しみね」
テトラが傍らに座る。
「あ、はい私も乗ったことがないです。池のボートみたいなものですよね」
「絵にするとこんな感じかな?」
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