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テトラの指が机をなぞる。朧気にネアから借りた本の挿絵を思い出す。
「大きな台形を逆さまにして、ふたつくつけて。三角を縦に置くのよね」
「そうそう。三角の部分は帆(セイル)と言うのよ」
「セイル?」
「風を受けて船の走行を助けるの。そう聞いたことがあるわ」
「船に乗れるなんて夢みたい!」
リシアは両手を叩いた。その表情を見たテトラが微笑んでいる。どこか安心した表情でリシアはきょとんとした。
「笑えるのね。良かった」
テトラがリシアを抱き締める。暖かい腕に引き寄せられて瞬いた。
「リシア。私が死んだら、ハーティをお願いね」
囁かれた一言に顔を上げる。テトラの笑窪が可愛らしく見えた。その中になにか寂しげな空気を感じてしまう。リシアの心の片隅を死んだ両親が掠めた。テトラから渡された「さよなら」の言葉はリシアを縛り付ける。
言葉を探すリシアの鼻孔を焦げた臭いが掠める。
「テトラ……さん。なんだか変な臭いがするわ」
「あら、本当……」
テトラが気が付いて立ち上がる。リシアもテトラに続いてリビングを出た。
煙が二階から降りてくる。
「テトラ、リシア! 屋敷が火事だ。外に出るんだ!」
続けざまにハーティの声が響いた。ネアが荷物を抱えて階段を降りてくる。
「セルシオ様が部屋にあったランプで火を灯したようです! お二人とも早く。早く外へ!」
リシアはテトラの腕にしがみつく。階段の上ではハーティが部屋に向かっていた。
「ハーティ!」
テトラが叫んだ。
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