三章

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 テトラの指が机をなぞる。朧気にネアから借りた本の挿絵を思い出す。 「大きな台形を逆さまにして、ふたつくつけて。三角を縦に置くのよね」 「そうそう。三角の部分は帆(セイル)と言うのよ」 「セイル?」 「風を受けて船の走行を助けるの。そう聞いたことがあるわ」 「船に乗れるなんて夢みたい!」  リシアは両手を叩いた。その表情を見たテトラが微笑んでいる。どこか安心した表情でリシアはきょとんとした。 「笑えるのね。良かった」  テトラがリシアを抱き締める。暖かい腕に引き寄せられて瞬いた。 「リシア。私が死んだら、ハーティをお願いね」  囁かれた一言に顔を上げる。テトラの笑窪が可愛らしく見えた。その中になにか寂しげな空気を感じてしまう。リシアの心の片隅を死んだ両親が掠めた。テトラから渡された「さよなら」の言葉はリシアを縛り付ける。  言葉を探すリシアの鼻孔を焦げた臭いが掠める。 「テトラ……さん。なんだか変な臭いがするわ」 「あら、本当……」  テトラが気が付いて立ち上がる。リシアもテトラに続いてリビングを出た。  煙が二階から降りてくる。 「テトラ、リシア! 屋敷が火事だ。外に出るんだ!」  続けざまにハーティの声が響いた。ネアが荷物を抱えて階段を降りてくる。 「セルシオ様が部屋にあったランプで火を灯したようです! お二人とも早く。早く外へ!」  リシアはテトラの腕にしがみつく。階段の上ではハーティが部屋に向かっていた。 「ハーティ!」  テトラが叫んだ。
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