三章

19/26
前へ
/87ページ
次へ
「私が行きます。ネアさん、テトラさんをお願い!」  リシアはテトラをネアに引き渡し、階段を登る。 「リシア! 戻って!」  テトラの声は敢えて聞こえない振りをして駆ける。扉を開こうとするハーティにしがみつき、その手首を掴む。ハーティは男にしては細い。 「あいつを助けるんですか?」 「あれでも弟なんだ。離してほしい」 「貴方まで怪我をしてしまいます。奥様も居るのだから無理はしないでください」 「リシア。僕はセルシオのように人殺しにはなりたくないんだ。手を離してくれ」  ハーティの強い口調はセルシオと変わらない。リシアは怯えるように手を放す。ハーティが合鍵で扉を開くとセルシオがハーティに切りかかった。護身用のナイフが閃く。 「止めてっ」  リシアが叫んだ。  ハーティの着ている背広がナイフに切られた。  セルシオが舌打ちをして、今度はリシアに向かう。  リシアは反射的に逃げる。セルシオは狂ったようにナイフを閃かせて階段の段差を踏み外し、広間に転がり落ちる。派手な音がめらめらと燃える炎の音に重なった。  ハーティが階段を駆けていく。リシアもふらふらと階段を降りながら動かないセルシオの様子いる。ハーティがナイフを拾った。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加