三章

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 近隣には家もある。庭の広さがあるから燃え移る心配はないと思うが、風の関係で飛び火する恐れはある。  リシアはスラム街の火事を経験している。  パイプの火が燃え上がり、スラム街の西側を見る間に焼き払った。  炎は家屋を、逃げ送れた人間を焼いて、朝方まで燃えていた。川の水で消火にあたった役人も煙を吸い込んで何人か亡くなっている。  リシアは知人と橋の下で夜を明かした。  忍び寄る炎にスラム街の記憶は徐々に戻りかけている。それはリシアが忘れていた感情を動かした。 「外に! ハーティ様、セルシオ様も!」  焦から唐突に飛び出した言葉にリシアは驚きを隠せない。 「早くして!」  リシアは折角手に入れたチケットを無駄にはしたく無かった。  焼け死ぬなどしたくは無かったし、出来た機会を逃したくは無かった。 「先に行ってくれ。僕はセルシオを連れていく!」  リシアはハーティを見返した。思った通りのどうしょうもない優しい人物だった。ハーティがセルシオの腕を掴んで引きずっている。しかし、ハーティだけの力はセルシオを引き出すことはできそうもない。  リシアはテトラの背を押した。テトラがハーティとセルシオを気にしている。テトラの表情は蒼覚めていた。ネアは荷物を持って中庭に飛び出していた。相変わらず仕事が早い。  リシアはテトラと乗船チケットをネアに任せる。リシアは、中庭にある井戸から水を汲み、自らに引っ掛けて燃える屋敷に戻った。
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