三章

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 シャンデリアが床に落ちて砕けた。物凄い音だ。割れた破片が床に散らばる。後数秒移動が遅ければ下敷きになっていた。  ハーティとリシアは、セルシオを中庭に引きずり出す。中庭にはトルテとネアが屋敷を凝視する。荷物は足元に投げ出されていた。  屋敷は音を成して崩れていく。  過去からの思いでも、つい先程までの思いでも。  ハーティは炎を見詰める。屋敷は骨組みになった。炭だ。枠組みだけが一瞬だけ見えた。  儚い。  感じたことはそれだけで、物に対する執着はないと再認識していた。  ハーティには屋敷が広すぎたのだ。昔から埋まらない世界を埋めようとしていたのだ。結局、なにも埋まらなかった。 「燃えちゃった」  リシアが呟いた。 「そうね」  テトラがリシアに寄り添う。 「セルシオ。君はどうする?」  ハーティは座ったまま動かないセルシオに問いかけた。  燃える炎を見据えているセルシオの眼差しには光がない。  喪失感がセルシオを取り巻いていた。  無理もない。セルシオは自分で全てを焼いたのだ。リシアを奪い返すためになのか苛立ち紛れの所業かはハーティでは推測するしか出来ないのだ。自分でも早急に答えを出すことは難しいだろう。なにせセルシオは人を殺しすぎている。ハーティとしては罪を認めて牢屋で気を落ち着けることを願うばかりだ。今までのツケは必ず回ってくる。
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