三章

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 セルシオを見ていると自分に重ねてしまう。今にどうすることも出来ないことが回ってくるのではないかと。失うことを怯えているハーティがその場に居た。失うときは一瞬だ。それは命かも知れないし、大切に集めてきたなにかかも知れない。そうなったときにどうするかをハーティも想像は付かない領域にある。良いときと悪いときの差は激しい。良いときに悪いことを考え悪いことを良いときに考える。そんな器用な生き方をハーティは羨ましく思う。 「リシア。君は僕を捨てたりはしないよね?」  セルシオがリシアにすがる。リシアが怯えながらもセルシオから遠ざかる。ネアとテトラが立ちはだかる様子をハーティは冷や汗混じりに見守る。 「貴方なんか知らない!」  リシアの悲痛な叫びが轟いた。  火事を見つけた役人がざわざわと駆けてくる。いつぞやの馭者も居た。 「セルシオ・ステイグマ。殺人の容疑で取り調べを行う」  役人がセルシオを立たせた。 「ああ! 旦那。無事だったんですね!」  馭者が走りよってくる。 「セルシオのことを役人に告げ口したのか?」 「ええ、ええ。セルシオ伯爵様の周りでは不審にお人が消えなさる。街じゃ有名なお話でしてね。スラム街の有名どころが伯爵の悪事をばらそうって調査を仕掛けたんですよ。そしたら、街の隅にある廃棄工場から遺体がわんさかでましてね。金品は奪われているわ、骨は薬で溶かされてるわ、そら散々なもんでしたよ。そんで、お役人が見張ってたらこの有り様でごさんしょ? 俺もびっくりしましたわ」
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