三章

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「セル……本当、なのか?」  ハーティはセルシオを見据えた。役人に腕を捕らえられたセルシオが笑う。弁解するつもりもないのだ。壊れた目が、色を消した焦点の合わない瞳はハーティを見据える。虚ろな表情は生きる気力さえ消えている。言葉はなく、空気だけが動いた。  役人がセルシオを馬車に乗せて消えていく。  降る雨の音色に初めて気が付く。 「旦那。俺あ、あんたが出て行った頃にあの人に雇われて居たんですよ。月に三回、毎回違う女を連れて同じ路を走らされてたんです。おかしいと思うでしょ?」  馭者がなにかを話していたがハーティはセルシオが乗せられた馬車の方に顔を向けていた。 「役人に何回も言って、やっとっ……」  ハーティは馭者の話を聞き流して荷物を持つ。 「ああ! 旦那。馬車は俺のを使ってくれ!」  馭者が叫ぶ。 「最初からそうするよ。四人だ。港まで急いでくれ」  ハーティは馭者にいい放つ。 「承知しました!」  馭者は話を中断し、自分の馬車に向かって走って行く。 「ハーティ」  テトラが駆けてくる。 「テトラ。あまり走らないで。リシア、ネア。荷物を馬車に積み込んでくれ!」  テトラを抱き止めて、リシアとネアに言った。
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