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☆☆☆
「うわあああああああああ!!」
緩やか、かつ規則的に揺れる電車内にいつのまにか、寝てしまっていたのだろう。
観光客やツアーで賑わうオスロからベルゲン間の列車だが(二人の故郷であるフロムの村はその間に位置する)、客席にはマルクスとアルベルトを除く乗客が誰一人いなかったのが幸いだった。
「どうしたよ?」半目を開けてアルベルトが訊ねる。彼もまた同じく寝てしまっていたらしい。
「いや、なんでもない」
列車からのソグネフィヨルドの景色もフェリーから見るものとまた違った。
ゆっくりと、なだらかにスローモーションで見渡すのではなく、目まぐるしい規則とスピードで動く自分とほとんど動かない山の景色の空間差に人であることの不幸を感じ取る。こんなに綺麗でため息が出てしまいそうな森と川が広がっているのに、早く動くことだけを考えた人間はその世界に自分から目隠しをかける。そこに改めて自然の尊さを知る。
--頭(こうべ)を上げよ、なぜならお前自身の中に、限りない青空がひろがっている。
そこでは竪琴(たてごごと)がひびき、歓喜して音をたて、揺れている。
詩人ビョルンスティエルネ・ビョルンソンもこの景観と相対する列車の焦燥感に何かを感じ取っていたのだろうか。
下を見るから、下しか見えない。
上を見るから、上しか見えない。
ああ、人はいつだって、一つの方向しか見えないんだ。
いつのまにか、横で再び眠りについていたアルベルト。
道とは、受け入れる事かな。
マルクスは彼のこの言葉の真意をなぜか知りたかった。頭の隅にへばりついて落ちない、汚れのようなもの。
そう考えていたら、睡魔がリリーフカーに乗ってやってきた。
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