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◆◆◆◆
「ハイ、マルクス!!」
フェリーを降りてフロムの村に足を入れると、張りのある大きな声と影が雑踏をかき分けて近づいてきた。
「ハイ、アルベルト」
相変わらずの存在感に思わずたじろいでしまいそうになるが、昔からの変わらない面影に安心する自分もいた。世界と時計が回り続けても、こいつだけはいつまでもこのままで。そう言い切れる確証はないが、信じてもいいと思える心強さがあった。
そういえば、フロムの村に訪れたのは何回目だろう。
ヒラヒラと風になびくトレンチコートの右腕。マルクスはアルベルトとハグを交わす。
アルベルトの方が圧倒的に背が高いので、少し背伸びしないと届かないのが毒だ。
彼とハグを交わすつど、必要な距離が段刻みで伸びていく気がして、やるせない気持ちになる自分もいた。
「いつになってもデカいな、お前は」
「ある日いきなり縮んでもビックリするでしょ?」
「俺はそれでもかまわない」
「……素直じゃないやつ」
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