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「にしても、不思議な光景だよな」
アイスコーヒーを全て飲み干すと、巨大な右手がマルクスのある筈でない右腕部分を握る。虚空に握りこぶしを作るように手に力をこめると、摩擦を引き延ばすように外側へ引っ張った。
いて、いてててて。
マルクスの顔が少し歪んだ。
「見えないだけで、感触はあるんだもんなぁ」
「引っ張る必要ないだろ」
「ファンサービスだ」
「意味が分からん」
◆◆◆
「で、今日はどうしてみる?」
オーケストラの演奏も一段落つき。
静寂の代わりに客席のあちこちからザワザワした雑音が聞こえ始めた。
もしかしたら最初から聞こえていたのかもしれない。
それだけ二人はオーケストラの心地を気に入っていたのかもしれない。
「無論」
アルベルトに続いて、マルクスのストローがグラスの中身を透明色に染め、コン、と机の天板を叩いた。続いて空気を一つ吸い込む。
「指輪を探す」
「決まりだな」
二人は席を立つ。
「ところで、マルクスはお金持ってきているか?」
「いきなり現れてもビックリするだろう?」
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