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「噂っていうかさ、新しい情報を聞いたの。お守りってさ、こう書くじゃん?」
今度は机の上に出しっぱなしの立てるタイプのペンケースからピンク色のシャーペンを取り出すと、ルーズリーフの真ん中に走り書きする。綺麗な文字で「お守り」と書かれる文字を見て、杏は頷く。
「でもね、噂のお守りは……「御護り」って書くんだって。なんでだろ?すごくない?」
万里は上がったテンションそのままに、ルーズリーフをずいっと杏に突き出した。杏は鼻先に迫るルーズリーフから離れてから改めて字面を見る。
「御護り」と書かれた文字の並びは初めて見る。「守る」ではなく「護る」と書かれていることも気にかかる。
「たしかに……何か意味があるのかもね」
「杏もそう思う?」
同意をすれば万里は嬉しそうに笑う。わざわざ当て字の漢字を使っているからには、何かしら意味があるのだろう。
ではいったいなにが――。そこまで考えて杏は緩く首を横に振った。
「でも、ただの噂じゃん。その御護り?だって実際は存在しないんじゃない」
杏は湧き上がってくる興味を、自身にも言い聞かせるように吐き捨てた。そう、所詮は噂。根も葉もない。と心の中で繰り返すと、少しだけ胸が痛む。
万里は困ったように眉を下げて、気づかわし気に杏を見やる。心なしかクラスの雰囲気も悪くなったように感じた。
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