1.噂

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 噂なら確かめてみよう。この子が言うのだから事実に基づいているはず。そう思った杏は教科書を読みながら席の横を通りかけた国語担当である教頭先生の頭へ手を伸ばした。  何故か止めるクラスメイトを横目に、教頭先生のカツラを掲げた時の教室内は波を打ったかのように静かだった。爆笑してくれたのは一部であとから親友になる万里ともう1人の友人だけ。  残りのクラスメイトは教頭先生と杏から顔を背けていた。杏はそのまま廊下に連れ出され、教頭先生に説教を受けて授業が終わるまで戻る事は許されなかった。休み時間になってようやく教室に戻った杏を待っていたのは、クラスメイトからの称賛ではなく冷めた視線だった。 「普通本当にやる?」 「面白くはあったけど冗談が通じないってさぁ」 「そういえば私、入学初日に財布忘れたって言ってる先輩にジュース買ってた坂城さん見たんだ。坂城さんはたまたま通りかかっただけだったみたいだけど、坂城さんがいなくなってからその先輩鞄からお財布出してて、後から来た友達にタダでもらったーって言ってたの見たんだよね」 「なにそれ。普通嘘だって気づくでしょ」  杏は席に着くと話が聞こえないフリをして次の授業の教科書を準備する。そっと教室の中を見回すと、目の合った数名のクラスメイトに視線を逸らされてしまった。仕方が無く参考書を開いてみるが、ちっとも頭に入ってこない。潜められていない声は杏の右から左へと通り過ぎていく。
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