1.噂

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※  1年1組の教室は朝のHRをむかえても賑やかだった。担任の体育教師が連絡事項を伝え、それに生徒がおちゃらけて答える。いつもの光景。杏は1番後ろの窓側の席で、その様子をどこか画面の向こうの出来事のように見ていた。35人いる教室で杏は孤独だった。  ぼんやりと頬杖をついて窓を眺める。反射して見えたのは不満そうな自分の顔。パッチリとした二重はたれ目ぎみで、色白のせいで顔色が悪く見える。右耳には赤い小さな丸い石がついたピアスをしていた。  窓の端に映るクラスメイトは楽しそうに近くの人と話したり、黙って先生の話を聞いていたりと様々で、杏と同じ顔をしている人は見当たらない。万里も近くの友人達と楽しそうに談笑している。  本当は、杏もクラスの輪に入りたい。万里みたいに中心で笑ってみたい。けれど杏には出来なかった。人に好きになって欲しくて近づくのに、怖がられて拒絶される。 「教頭先生ってカツラらしいよ?ちょっと確かめてみなよ」 「そうなの?わかった」 「え、ちょっと」  思い出すのは入学式から数日後の国語の授業での事。隣の席の女子が声を潜めながら杏に話しかけてきたのがきっかけだった。
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