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周りの客も目を剥いて唖然とする。針のような視線が全身に刺さる。唯一事態の深刻さを認識していないのは、愛ちゃん本人だった。
「ど、どうしてそんなことをするのさ」
すると彼女はさも当然のように「経口摂取は設計上、不可能ですので」と言う。
「だ、だったら無理して食べないでよ! みんなに変に思われちゃうじゃん!」
まるで悲鳴だった。僕の声もまた、人の目を引きつけて、顔全体が熱くなる。 しかし愛ちゃんは僕の言葉に首を傾げると、「幸太くんは、どうしてそんなに見た目を大事にするのですか?」と言った。
「こんな高級レストランで私のような恋人ロボットを連れ、おまけに彼女がいると両親に偽る――幸太くんは、何がしたいのでしょう」
それは、咎めるでも怒るでもない、純粋な疑問だった。嘘偽りなく、純粋な。
「みじめでも、情けなくても、弱くても、それでいいじゃないですか。何しろ、幸太くんはロボットではなく人間です。完璧じゃなくて良いんです」
彼女は羨むような目をしていた。彼女の美しさもまた「作られたもの」なのだから。
――僕は、見栄を張る必要なんてないんだ。
スマホを取りだして、僕は電話した。
「ま……ママ! ごめん、僕、嘘ついてた! 恋人なんていないんだ! ごめんなさい!」
電話の向こうでママは春風のように微笑んでいた。
――ママには、全部お見通しだった。
この日、みじめで情けなくて弱い僕は、見栄っ張りなもう一人の僕に別れを告げた。
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