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そして。
それから。
私は黙した。
何も語らない。
たったの一言も。
これは呪いだから。
みんなを守るためだ。
語ってはいけないのだ。
弱音を吐かず、反論せず。
いつしか空気になっていた。
それでも私は不満を持たない。
誰かが傷つくよりはマシだから。
だというのに「それ」は起こった。
「1人1役、最低でも1台詞あるから」
文化祭の発表は演劇になってしまった。
そして1人1役、最低でも1台詞がある。
しかし私は否定の言葉を持っていなかった。
否定の言葉さえも、恐ろしくて口にできない。
首を振って拒むが空気たる私の意思は届かない。
私の台詞は「世界なんて滅べば良いのよ」だった。
つまり、私は文化祭で世界を滅ぼすこととなるのだ。
嫌な汗が首もとを流れる。息が詰まるように思われた。
やる気ある者のみが練習し、私は練習に参加しなかった。
そして時間はめまぐるしく進み、ついに本番がやってくる。
演劇を台無しにするか世界を滅ぼすかの決断を迫られていた。
幕が上がる。拍手と歓声。期待と興奮。震えつつも勇ましい声。
劇場の熱が上がる。心臓が跳ねる。そして私の出番がやってきた。
失敗しないでね、声出してね、といった目があたりから向けられる。
誰一人として想像だにしまい。私が世界の命運を握っていることなど。
私は覚悟を決めた。逃げることなどできない。舞台に立ち、そして言う。
「世界よりも、声が欲しい。こんな世界じゃ叫べない。だから、私に声を!」
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