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貴方は子鹿をどこから食すだろうか。
私の恋人は後ろ足に迷いなく食らいつくが、私はやはり腹部である。
かように我々というものは同じ「食う」も異なる。なかなかにグルメである。たとえばある者は血を嫌う。血が抜けるのを待ってから食うという。しかし時間を経れば好機を逃すというのは世の習いだ。血が抜けるまで待てば肉のうま味が減るだろうに、と、私などは思うものだ。
食の話題というものは尽きない。何しろ、我々は常に食い物を求めている。生きるために食しているのか、食していることが生きることなのか、私にはわからない。
ともかくとして、今日この日もまた、食を求めて恋人と山を散策していた。彼女は率先して歩き、私はその後ろを追う。その間も、つい彼女の後ろ姿に見とれていた。私の恋人は脚が長く美しい。つい先日も、「あたし、脚の手入れだけは欠かさないの」と語っていた。そんな恋人を持つ身として私も鼻が高い。
木の葉が作り出す格子の影は、風と共にゆるやかに形を変える。その影にいくつかの別の影が混じった。小鳥である。山では、小鳥が美味である。小鳥らは私の頭上を飛び回る。おちょくるようなさえずりに、私の腹は空腹を訴える。
「そろそろおなかが空いたわね」
と、彼女もまた私と同じことを考えていたようであった。私は「ああ」と頷いた。
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