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「あれを捕らえられるかしら」
「やめておけ。人間は危険だ」
「ううん、あたしやるわ。だって久々の肉よ? あなただって食べたいんでしょう?」
そう言われては言葉がない。私も、腹の音が人間に聞こえぬよう我慢するので精一杯だった。
「ならば、行こう」
私は先に草むらから飛び出た。人間は驚いたように仰け反ると、吠えながらテッポウで小石を放ってきた。しかし私は身を翻す。小石は私のそばをかすめ、遙か彼方へ飛んでいった。その隙に、私の恋人が人間の背後から襲いかかった。彼女が首もとにかみつくと、人間は血を流して眠った。
「思ったより脆いのね」彼女は赤い口で言う。
「そんなことはいい。早く食そうぞ」
すると彼女は「待って」と言った。私は逸る気持ちを抑えきれず「何だ」と語気が荒くなる。しかしそんな私に怯えるでもなく、彼女は人間の胸元に食いついた。
先駆けがしたかったのか、と怒りを覚えるが、そうではなかった。
「こうやってこの変な表皮を剥いでしまえば美味しいのよ」
表皮を剥げば、桃のような色の肉が現れた。その不思議な食い方に驚く私であったが、一口かじって私は言った。
「美味である」
もうしばらくは山を下りずに済むようだ。
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