富豪と貧民

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審判がルールを提示した 黒>赤>白>黒の三竦み 持ち札を全部積み上げて 勝負札を一枚だけ選んで裏返し 互いに差し出して審判が捲る それを三回繰り返せば次遊戯参加 つまるところすべてを 差し出した一発限りの勝負 一回の負けで終わるんだ これが勝負、何度も繰り返される 札のやり取りにうんざりとしていたのは 確かなことだ 急に札を失うことが惜しくなった 札を多く積み上げたものならば その失う価値は増すのだろう 「三回勝ち抜ければいいのね」 急にやる気を出した女の横に うなだれる男 「これは均等に与えられた チャンスなのだろうか」 金を振り撒いて 一瞬の愉悦に目を眩んだものには 計り知れない悪夢なのかもしれない 増えたはずの札が薄っぺらに思えた ぐっと札を握りしめ 勝負席に立ち並ぶ 並べられた札に3度目の審判が降る 安堵の溜め息を僕は洩らした 目についたのは 入場ゲートの解放… 這い上がれるチャンスが あるのだろうか… ゲートから駆け走る男の姿をみた ジャックポットの数字がまた動き出す 負けた瞬間に 勝負が決まる訳じゃない これはまだ 諦めることを忘れさせた 狂気な遊戯の途中で 中途半端な勝ちが この場所を立ち去ることを 許さない… そして、得たものを失う屈辱が 再び勝負を挑ませる… 女が隣で笑っていた 男も満足そうに横に並んだ 持ち札を増やす為には 再び勝負に挑まなければならない 札を一瞬で削られたら この遊戯は終わり 勝ち抜けた偶然に 歓喜を覚えたのは僕だけじゃない 笑みがこぼれていく
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