0人が本棚に入れています
本棚に追加
青年はまどろんでいた。開いた窓から射し込む柔らかな日差しを背中に受け、うつらうつらしながら、一日の中で最も平和なひとときを楽しんでいた。
吹き込む風に体を揺らした時だった。
「お前にはホネがないっ!」
平和が破られた。青年が目を開けると、仁王立ちした老人が見えた。青年の仕事場の隣、仕切られずにそのままつながった部屋の窓際を持ち場とする老人は、青年の先輩にあたる。とはいえだいぶ経験の差はあり、仕事のやり方もかなり異なっているのだが。
またか、と青年は苦笑した。しかしこれももう日課となっている。
「今日はどうされたんですか?先輩。」
「どうかしとるのはおまえのほうじゃ!何かあったらすぐフラフラしおって!見ていてうっとおしいことこの上ないわ!」
風に揺れたのを見咎められたらしい。目敏いな、と思うと同時に、見なければいいのに、とも思ったが、以前それを言って数時間説教されたことがある。あえて藪をつつくことはしない。青年には学習能力があるのだ。
「仕方ありません。僕はすぐ揺れてしまうものなんです。癖というより体質でして。」
「仕方ないじゃと!ホネがないと言われて怒りもせんのか!わしは外見もそうじゃが、そののらりくらりとした態度にホネがないと言っておる!」
うまいことを言うなあ、と感心しつつも、青年は言い返した。
「事実は認めるべきです。誰にでも長所と短所があります。でも、僕も先輩も、自分の長所を活かして、自分のやり方で仕事を」
「言い訳するにしても止まらんかっ!話すにしろ聞くにしろフラフラされとったら気が散るわ!」
老人が青年の話をぶった切った。風は穏やかに、そして絶え間なく青年を揺らしていたのだ。青年は遮られることには慣れていたので、もう一度、説明した。
「仕方がないんですよ。僕は先輩のように立っているのではなく、ぶら下がっているんですから。」
「それもなっとらん!」
最初のコメントを投稿しよう!