第1章

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4時限目終了のチャイムが鳴る。 やっぱりこの講義はつまんない。 先生は嫌いじゃないけど、 単位に必要なかったら絶対受けてないな。 一斉にざわつきだす教室を後にし、 私は食堂へ向かう。 2時限目が一緒だったゆかりとは、 入学式の日に私から声をかけて仲良くなった。 1年生の頃はほぼ毎日一緒にいたが、 2年生のコース選択で私は教育学、 ゆかりは英文学に分かれてしまった。 そのため、 月曜の3時限目からは専門科目のみだから、 ゆかりは隣にいない。 でも、お昼休みに食堂で一緒に昼食をとったあと解散して、 4時限目のあと再び食堂で落ち合うのは、 月曜日の日課になっていた。 「お疲れ~。」 食堂の入り口からいつもの席を見ると、 ゆかりがこっちを向いてヒラヒラと右手を振っている。 いつもは私の方が5分ほど早くこのテーブルに着くのに。 「え、早くない?」 「何か先生が用事あるからって、30分くらい早く終わった。」 「相変わらず自由人だねぇ、小川先生。」 現代のアメリカ文学を専門に研究しているらしい小川先生。 私も1年の時に必修科目でお世話になったが、 なかなかの変人だ。 それでも、先生を慕っている学生も多いみたいだから、 優秀な人なんだろうけど。 「このあとどうする?」 「バイトもないし、特に予定ないけど。」 「スイーツが美味しいって評判のカフェが ウチの近くに出来たらしいんだけど、行ってみる?」 「この前行ったところは、ハズレだったもんね。 でも私、来週提出のレポートまだ終わってないんだよー。」 スイーツか、レポートか。 頭の中でよく見る天秤を思い浮かべて、 左にスイーツ、右にレポート。 「頭を働かせるには、糖分は必要だよ。」 ゆかりの誘惑を耳にしつつ 左右に揺れる天秤と共に心が揺れていると、 食堂入り口から、大きな声が響いた。 「あ、いた!」 何だか、聞いたことのある声…? 「ちょっと、智!あいつ…」 ゆかりが指さす先には、 並べられたテーブルを避けながら 最短距離でこっちに歩いてくる…謎の人。
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