第1章

5/44
前へ
/45ページ
次へ
約束の水曜日。 西門、午後12時30分。 早く着きすぎちゃった……。 特別楽しみにしていたわけではないけれど、 なぜか他で時間をつぶす気にはなれず、 もしかしたらもう居たりするかな?と少し期待して来てみたけど。 30分も前に居るわけないよね。 ちょうど門の近くまで伸びている木陰に逃げ込み、 時間まで彼を待つことにした。 梅雨入りして1週間は経ったはず。 しかし今日は、雲の切れ間から光が差している。 梅雨の時期には珍しい晴れ間だ。 木陰にいても、少しすれば額に汗がにじむ。 確か予報では、夕方から雷に注意とか言ってたっけ。 それまでに帰れるのかな~。 そもそも、彼には聞きたいことが沢山ある。 というか、彼について知らないことだらけだ。 まず何を聞こうか、頭の中で整理を始める。 それからは、時間が経つのがあっという間だった。 「すいません、お待たせしました。」 「いえ。全然、大丈夫です。」 少し手前から私に向かって投げられた声は、 疲労の色が混じっていた。 駅から走ってきたのかな。 肩を上下に動かす彼が、私の目の前に立つ。 「1限受けてから1回家に帰って、 掃除してからここに来ようと思って。 そしたら、意外と掃除が終わらなくて。 電車一本乗り過ごしちゃったから遅れました、すいません。」 ふいに携帯の時刻を見ると、約束の時間を5分ほど過ぎていた。 「そうだったんですか。 そんなに急がなくても、連絡さえくれれば良かったのに。」 「それが、連絡先交換してなかったことに、 電車の中で気付いて。」 あ、本当だ。 それも聞かなきゃいけない。 質問リストに1つ追加だ。 「それじゃあ、行きましょうか。」 上下に動いていた肩が、大分落ち着いていた。 先に歩き始めた彼の後を追って、木陰から足を踏み出した。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加