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蛙(かわず)橋
清流にかかるこの橋に立てば、美しいカジカの鳴き声を満喫できることからこの名がついた。
……というのは体のいい建前で、地元に住む人間なら知っている『本当の名前』がこの橋にはある。
叶わず橋
その名の通り、この橋に男女で立つと、その二人の未来の約束は塵となって消えた。
橋がかかる淵、ここにはどこにでも有りそうな伝説が残っている。
身分違いの男女が激しい恋に落ちるも、身分差故にその未来が叶わず、男の裏切りによって傷ついた女が橋から淵に身を投げた、というものだ。
地元民の大半は、カップルが別れるのはたまたまであって、この橋が起因しているわけではないと思っている。
実際私もそう思っていた。
ところがそれを覆す事件が起こった。
数年前、私の親友の結婚が決まった。
都会で生活していた彼女は、顔合わせの為に将来を誓った男性と共に帰郷した。
話は和やかに進み、両親に承諾を得た彼女は、彼を夜の散歩に連れ出した。
都会では見ることの出来ない蛍を追いかけながら歩くうちに、二人は蛙橋に佇み蛍に酔いしれた……。
穏やかな散歩のはずだった。
翌日、昨日までの睦まじさが嘘だったかのように二人は冷えきっていた。
当然、結婚宣言は撤回。
彼は酷い捨て台詞を吐いて町を離れ、彼女も怒り冷めやらぬまま再び町を出たのである。
この件があってから、蛙橋のジンクスは私や友人達の間で信憑性を増した。
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