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まずスタートは無縁仏から始まる。無縁社会
その日、成増西の交番勤務の中林巡査に一本の電話が入った。
「隣の部屋から変なにおいがする」
隣の住人は、新聞受けに10日分以上の新聞があふれていること、さらに呼び鈴を
鳴らしても返事がない事を伝えてきた。
その口調には、「死んでるのでは・・・・」と言う確信が満ちていた。
「そうですか・・・わかりました」
中林は、師走に迷惑な話だと思いながら、告げられた番地に向かった
モルタル作りの質素なアパートで、大家に鍵を開けて貰うと、
炬燵のテーブル部分に頭部をしなだれる形で、男が一人息絶えていた。
「はい、そうです。男が死んでます。勤務先のカードに山崎達也とあります。
ええ年齢は60歳みたいですね。特に荒らされた感じもないし、
自分は、自然死と思います」
今、ちょっとした流行りの孤独死だ。
孤独死とは、内閣府の高齢社会白書(一〇年版)では「誰にもみとられることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な孤立死(孤独死)」と定義されている。
ちなみに、この東京では、65歳以上孤独死は6年ほどで60%も増えている。
だから署も、特に驚きはしない。
中林巡査にとっても、今年、3件目であった。
「多分死んでから1週間くらいだな・・・早く見つかった方だよ」
彼にとって迷惑なのはこの後なのだ。
実は、孤独死した住人に遺族がいれば、葬儀やアパートの家賃などを請求できる可能性が
たかいのだが、まったく身寄りが分からない無縁死だと、これがややこしくなる。
まず葬儀だが、自治体によって火葬の手続きをとる事になる。
さらに遺品と遺骨も自治体が保管をする。
それが面倒なのだ。遺体を運び出すことからは時乗り、知らない人間の火葬に立ち会い、遺品を段ボールに入れまとめ・・・・何枚もの書類を作り・・・・
これが、遺族が見つかると、任せればいいだげなのだから、ずいぶんと違う。
彼は、3時間後、検死が終わるころには、もう諦めていた。
この男の身元が分かるものは、身分証にあったアルバイトの警備先の履歴書のみで、
その出身地も名前も嘘だと言う事が分かってきたのだ。
こいつは、山崎達也に「なりすなし」て生きていたのだ。
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