年寄りは眠るように自然死を

2/3
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
     まずスタートは無縁仏から始まる。無縁社会 その日、成増西の交番勤務の中林巡査に一本の電話が入った。 「隣の部屋から変なにおいがする」 隣の住人は、新聞受けに10日分以上の新聞があふれていること、さらに呼び鈴を 鳴らしても返事がない事を伝えてきた。 その口調には、「死んでるのでは・・・・」と言う確信が満ちていた。 「そうですか・・・わかりました」 中林は、師走に迷惑な話だと思いながら、告げられた番地に向かった モルタル作りの質素なアパートで、大家に鍵を開けて貰うと、 炬燵のテーブル部分に頭部をしなだれる形で、男が一人息絶えていた。 「はい、そうです。男が死んでます。勤務先のカードに山崎達也とあります。 ええ年齢は60歳みたいですね。特に荒らされた感じもないし、 自分は、自然死と思います」 今、ちょっとした流行りの孤独死だ。 孤独死とは、内閣府の高齢社会白書(一〇年版)では「誰にもみとられることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な孤立死(孤独死)」と定義されている。 ちなみに、この東京では、65歳以上孤独死は6年ほどで60%も増えている。 だから署も、特に驚きはしない。 中林巡査にとっても、今年、3件目であった。 「多分死んでから1週間くらいだな・・・早く見つかった方だよ」 彼にとって迷惑なのはこの後なのだ。 実は、孤独死した住人に遺族がいれば、葬儀やアパートの家賃などを請求できる可能性が たかいのだが、まったく身寄りが分からない無縁死だと、これがややこしくなる。 まず葬儀だが、自治体によって火葬の手続きをとる事になる。 さらに遺品と遺骨も自治体が保管をする。 それが面倒なのだ。遺体を運び出すことからは時乗り、知らない人間の火葬に立ち会い、遺品を段ボールに入れまとめ・・・・何枚もの書類を作り・・・・ これが、遺族が見つかると、任せればいいだげなのだから、ずいぶんと違う。 彼は、3時間後、検死が終わるころには、もう諦めていた。 この男の身元が分かるものは、身分証にあったアルバイトの警備先の履歴書のみで、 その出身地も名前も嘘だと言う事が分かってきたのだ。 こいつは、山崎達也に「なりすなし」て生きていたのだ。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!