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「生きてるよ」
だが、彼の言いよどむ様子に、
あまり、よい状態ではないことが知れた。
それでも詳しく聞こうとすると
「外はすごいことになってる」
と藤井さんが、唇をゆがめて言った。
「すごい?」
「言っただろ。世間は下世話なネタを求めてるってさ。
お前と玲子さんの愛憎劇の、真相は!? だってさ」
「退院したら、俺のスタジオに隠れてろ」
と、槇さんも言った。
「玲子さんは」
「ああ、どのみち、しばらくは病院だ」
「状態は」
「槇さんが言ったろ。生きてる。そのかわり」
答えようとした藤井さんを、槇さんは制そうとした。
「大丈夫ですよ、僕は」
「どのみち、わかることですよ。
生きてるけど、まだ、意識が戻っていない」
2
病室にはテレビがないが、
外の騒がしさは見てとれる。
初日の夜は照明が煌々と照らされていたが、
二日目からは、なくなった。
周辺からのクレームがついたのだろう。
「すげえな」
ひとり残った藤井さんが、
窓の外を見ながら、
ときどきなにが起こっているのか実況する。
「向かいのビル、光ったな。
あそこから望遠レンズか」などと。
玲子さんは水谷昌の秘蔵っ子として、
伝説の女優だったのだ。
引退してからは聞くことのなかった名前が、
こうしてスキャンダルとして復活してきた好機を、
マスコミが逃すはずもない。
長塚先生のネームバリューよりも、
たぶん、大きい。
先生は芸術の領域では名が知れていても、
まだ、一般では無名と言っていいのかもしれない。
「ほら、見ろよ、レポーター。
あれ、よく2時からの番組に出るおばちゃんじゃね?」
「もう、行きますよ」
「なんだよ、もう準備したのか」
退院の準備といっても、
藤井さんが適当に用意してくれた、
タオル数枚と、下着くらいだ。
退院したときのためにと、買っておいてもらった
ユニクロのTシャツとジーパンは、だぶついた。
たった数日の入院なのに、痩せたようだった。
それに、皮膚の色に血の気がない。
運ばれてきたときに着ていた服は、捨てた。
血まみれで、着られるものではなかった。
なんだかんだと言いながら、藤井さんは
僕の世話をする。
いわく、「暇だから」。
あるいは「惚れた弱み」。
「嫌いなんじゃ、なかったですか」
そう言うと、
「嫌よ嫌よも好きのうちって、聞いたことあるだろ」
と、はぐらかす。
どこまで本気かわからないのは、
いつも通りだ。
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