0人が本棚に入れています
本棚に追加
父を真ん中にして「?」マークの女性と、
母、百合子の名前が左右に示されて、線がひかれている。
左の線から垂直に、玲子さんの名前。
右の線から垂直に僕の名。
?マークは父が結婚するまえに
恋人だった女性らしい。
つまり、玲子さんと僕は
母違いの義理の姉弟という図。
これは嘘っぱちだ。
マスコミがいかに自分たちに都合のよいように
事実をねじまげるか、知っているじゃないかと、頭を振る。
長塚先生は商業写真はもちろん、
報道や芸能関係の写真を撮らなかったけれども、
それでも様々な話は届く。
おもしろく、よりよく、売れるために見せる。
その「物語」に組み込むための嘘を
写真が担うことくらい、よく知っている。
それでも画面から目が離せない。
異母姉弟という文字が出たまま
レポーターの話は続く。
僕はテレビを消して、外に出た。
図書館に行くのは、やめた。
4
あの日本家屋のことを実家と呼ぶことはない。
生家ではあったが。
そっけない茶色いマンションが実家だ。
中学生のころから、
大学を出て長塚先生のところで働くまで過ごした場所は
都心だが静かな住宅街にある。
テレビを見たあとだったので
母の住む所にまで報道陣が来ていたことには驚かなかった。
彼らへの欺き方は、いくつか考えてはいたが、
意外にも裏口に気づいていないことに、拍子抜けした。
小さな稲荷の祠の横を抜け、マンションの住民以外は使わない
路地を入り、ゴミステーションの横の柵をよじのぼる。
正面は防犯カメラや管理事務所があるにもかかわらず、
裏はつつぬけという、いつもはセキュリティに
心配を覚えるマンションだが、
こんなときは都合がいい。
エレベータは用心して使わないことにした。
非常階段を八階まで一気にのぼると
入院してからほとんど動いていない身体は、
早々に重くなって息切れがした。
非常口の鉄の扉を開けようとしたら、
鍵がかかっていた。
ここも以前は空きっぱなしだったのに、と苦笑する。
電話をかけると、母はすぐに出た。
部屋にいないのなら、待つつもりだったので、安堵する。
非常口を開けてほしいと頼むと
「水がなくなっちゃったの。
あと、なにかつまめるものを適当に買ってきて」
と、気軽に要請された。
ここにくるまでに、電話をすべきだったと
内心、後悔したが、必要なものをいくつか聞いて、
再び、八階分の階段を降りた。
最初のコメントを投稿しよう!