第十一話

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次にぼんやりと目が覚めた時、キッチンから流れて来る良い匂いに、 隼人が料理をしているんだと思った。 温かい、ご飯を炊く匂い。 胸の奥がじんわりとして、何だか未だに信じられなくなる。 俺が、隼人と、付き合うなんて。 考えただけで泣きそうで、今までの辛い思いが、更にそれに拍車をかける。 嬉しくても、涙が出るんだ。 そんな事実に、また、泣けて来た。 「…………渉、起きたか?」 「っ、」 ドアの隙間から声が聞こえ、反射的にビクリと体が震える。 タイミング、悪すぎ。 心の中で悪態を付きながら、頬に流れている涙を、必死で枕に染み込ませた。 「渉?」 返事をしないくせに、もぞもぞと動く俺を変に思ったのか、 隼人が心配気な声を出し、部屋に入って来た。 「ちょ、ちょっと待って。後ですぐ行くからっ。」 顔を見せないように布団を被ると、 隼人の手がそれを無理やり剥ぎ取ろうとする。 「な、何すんだよ!」 「渉、お前…泣いてるのか?」 「っ………!」 ストレート過ぎるその言葉に、また涙が溢れて来る。 「泣いてないっ!」 「おい。」 隼人の手から布団を取り返そうとしても、力の差は歴然だった。 逆にタイミングを外してグイッと引っ張られ、俺の上半身はバタリと横向きに倒れてしまう。 その隙を隼人が見逃すはずもなく。 「顔、見せろよ。」 呆気なく、取り押さえられてしまった。
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