第十一話

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幸せそうに食べる渉から、目を離すことが出来ない。 失ってしまったと思った大事なものは、いま俺の目の前にある。 今度はもう、絶対に手放さないと。 そう心に強く誓い直し、渉の笑顔を見つめた。 「…………なに見てんだよ。恥ずかしいんですケド。」 ふと俺の視線に気付いた渉が、少し頬を赤くしながら俺を見返して来る。 そんな些細な仕草すら、愛しくて。 「………可愛いなと、思って。」 今まで、決して渉へ投げ掛けなかった言葉が、自然と口からこぼれた。 びっくりした顔のあと。 泣きそうに、微笑む。 その姿から、渉が一体どれだけ傷付いて来たのか、それを知る。 俺の弱さと、理不尽な願望が、渉を拒絶し突き放していた。 どんなに、辛かっただろうか。 それでも渉は俺の傍に、いてくれた。 ずっと。 俺の、傍に。 猛烈に抱き締めたくなって、右手を渉の顔へ差し出す。 「ーーーーっ………、」 戸惑いを見せながらも、 渉は俺の手のひらを避けることなく、その頬に触れさせてくれる。 温かい。 「……………好きだよ、渉。」 「ーーーーーー…………。」 真っ直ぐに見つめると、真っ直ぐに見つめ返して来て。 その目に涙が滲むのを確認しながら、優しく頬を撫でた。 「…………うん………………俺も、好き………だ。」 そう言って、泣きながら微笑む渉に。 俺は我慢が出来ず、キスをした。
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