第1章 不思議な置物 1/2

4/29
前へ
/277ページ
次へ
 少し肌寒い風が体に染みる。運動場で練習をしている野球部を横目に、その側を通り過ぎ、南棟校舎へ繋がる通路を歩いていく。  口元に手を添えて大きな欠伸をする。潤んだ目を擦すりながら眠たい頭を働かす。  何で、睡魔に耐えながらも部室へと向かっているのか。  別に、時永真夜が真面目な人間とか、部室で仮眠を取りたいとかでは無く、ただ単に忘れ物をしたというだけだった。  南棟は裏門近くに建設された建物で、あまり人気が無い場所で、白い壁が薄汚れていてお世辞にも綺麗とは言い難い校舎だった。  南棟玄関へ足を踏み入れ、そのまま二階へと繋がる階段へと歩みを進める。  ペンキが剥がれ落ちた靴箱、乱雑に置かれた掃除用具、才能の欠片も感じさせない落書き。それらが南棟の現状を表していた。  うっすらと埃が積もったテーブルと積み上げられた数冊の本。倒れている椅子の横を通り過ぎ、階段を上っていく。  夕日に照らされ赤く染まった階段を一段ずつ跨ぎ、目的の場所である二階の社会準備室、改め、文芸部部室へ足を進める。  目的地までの階段を全て踏み越えると、目前には運動場を一望できる廊下の窓。少しの隙間から入る冷たい風が体を震わせる。  寒さを凌ぐ為、手持ち無沙汰の手をポケットに仕舞い、右側奥の我が部室へと視線を向けると、夕日色に染まった人影を見つける。 「……誰だ?」  思わず呟いた声が聞こえてしまったのか、こちらを振りむく遠くの人影。  大きな白いマスクで顔の下半分を覆い隠し、後方で纏め上げられた長い黒髪が左右に揺れている。赤い眼鏡の奥にある鋭い眼光は、遠目からでも威圧感が漂う。
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

167人が本棚に入れています
本棚に追加