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少し肌寒い風が体に染みる。運動場で練習をしている野球部を横目に、その側を通り過ぎ、南棟校舎へ繋がる通路を歩いていく。
口元に手を添えて大きな欠伸をする。潤んだ目を擦すりながら眠たい頭を働かす。
何で、睡魔に耐えながらも部室へと向かっているのか。
別に、時永真夜が真面目な人間とか、部室で仮眠を取りたいとかでは無く、ただ単に忘れ物をしたというだけだった。
南棟は裏門近くに建設された建物で、あまり人気が無い場所で、白い壁が薄汚れていてお世辞にも綺麗とは言い難い校舎だった。
南棟玄関へ足を踏み入れ、そのまま二階へと繋がる階段へと歩みを進める。
ペンキが剥がれ落ちた靴箱、乱雑に置かれた掃除用具、才能の欠片も感じさせない落書き。それらが南棟の現状を表していた。
うっすらと埃が積もったテーブルと積み上げられた数冊の本。倒れている椅子の横を通り過ぎ、階段を上っていく。
夕日に照らされ赤く染まった階段を一段ずつ跨ぎ、目的の場所である二階の社会準備室、改め、文芸部部室へ足を進める。
目的地までの階段を全て踏み越えると、目前には運動場を一望できる廊下の窓。少しの隙間から入る冷たい風が体を震わせる。
寒さを凌ぐ為、手持ち無沙汰の手をポケットに仕舞い、右側奥の我が部室へと視線を向けると、夕日色に染まった人影を見つける。
「……誰だ?」
思わず呟いた声が聞こえてしまったのか、こちらを振りむく遠くの人影。
大きな白いマスクで顔の下半分を覆い隠し、後方で纏め上げられた長い黒髪が左右に揺れている。赤い眼鏡の奥にある鋭い眼光は、遠目からでも威圧感が漂う。
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