第1章 不思議な置物 1/2

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 廊下の一番奥の文芸部部室の前に佇む彼女に近づき、とりあえず話しかけてみる。 「あの、どうしたんですか? こんな所で」 「……誰? まぁ、いいわ。丁度いい所に来てくれたわね。早速だけど、お願いを聞いてくれないかしら」 「お願い? いきなり何を? とりあえず、聞くだけなら聞いてみます」 「ありがとう。引き受けてくれるのね」  あれ? 会話が噛み合ってない。言葉のキャッチボールが成立してないな。  そんな事は気にしていないのか。怪しさ最大の彼女は用件を口に出す。 「結論から先に言うと、私の変わりに職員室からこの教室の鍵を借りてきてくれないかしら。先程、少し足を捻ってしまって歩きづらいのよ」 「それぐらいなら別にいいですよ。というか……これですよね。社会科準備室の鍵って」 「ん? 何故、貴方がこの教室の鍵を持っているのかしら。何が目的なの?」 「目的も何も、この教室を部室として使用している文芸部部長ですから。良かったですね。本当に丁度良いタイミングでした。今すぐ開けます。」 「ありがとう」  鍵を差込口に入れて回すと、ガチャ、という音と共に扉が解錠される。  扉を横にスライドさせて、中に足を踏み入れて、まだ見慣れていない文芸部部室を見渡す。  薄く汚れた黒板、資料が管理されている棚、床に乱雑に置かれた物。  そして、中央辺りに置かれた簡易テーブルと複数の椅子、その椅子にもたれ掛かるように置かれた黒色の高価そうな傘。
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