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「これが私が言う闇。全てを飲み込むということよ」
「く、暗くてなにも見えません」
『恐怖』
闇が生み出す魔物。人が作り出す感情。
「あなたはこれを知ってでもまだ私を受け入れるなんて愚かなことを言うのかしら?」
問いかけるも返ってくるのは沈黙だけだった。
当然ね。普通の人間ならこの闇で足がすくむわ。でも、私にとってこの闇は空気みたいなもの。体内にあり、体外にあるのが当たり前。
「中途半端な想いだと言うなら立ち去りなさい。この闇に喰われるだけよ」
冷たく言い放ち強く手を握った。凜華の表情には微かだが悲しみがあった。
「……こんな闇抱えて良いものじゃないですよ」
「え?」
「それは誰にだって闇のひとつやふたつあります。でも、こんなたくさんの闇ひとりで抱えてちゃダメなんですよ!」
「慣れたわ」
「僕が払います。そんでもって照らします! それじゃあダメですか?」
「ふふ、ふふふふふ。この闇で動くこともままならないあなたが良く言うわ」
「はい、本当は怖いです。今すぐにでも逃げ出したいくらいです」
「それじゃあ逃げるべきよ。誰も責めたりはしないわ」
「いいえ、絶対に逃げません。リンのためなら強くなれます。この闇もリンの一部だって言うなら受け止めて変えてみせます」
「生意気。なにも出来ない愚か者のくせに。この深い闇の中で一体なにが出来るって言うの?」
なにも出来るはずがない。誰かのために強くなんてなれないのだから。
「んっ!」
突然背後から抱き締められた凜華は小さな呻き声をあげた。女の子らしい可愛い声だった。
「リンを見つけることが出来ます。どんなに深くても、暗くても僕は必ずリンの隣に居ます」
「不可能よ。必ずだなんて」
「やってもみない内から答えを出すなんてリンらしくないですよ」
腕の中の凜華はなにも言わずに黙っていた。
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