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田原さんは浅いため息を吐き、やっと胸ポケットからスマホを取り出して画面をタッチした。
「はい、田原です。 …ええ、大丈夫です。 …はい、……ええ、それでしたら次の日曜には……」
電話の向こう側の人物と話しながらも私から目線を逸らすことなく、本心を探る目をこちらに向けていて。
全身をチクチクと何度も針で刺されているようで、耐え難い。
「…長くなりそうね、」
こんなんじゃ、電話が終わった後に問い詰められるのは必然だ。
「この後、予定が入ってるし、私、もう行く」
そうなる前に、逃げるしかない。
「これで本当に… さよなら、田原さん」
「優子…っ 」
言うが早いかすかさず非常口のドアを開け、スルリと抜け出し外へ続く道に向かってひた走りに走った。
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