第1章

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○海上   青空の中を鴎たちが泳ぐ。   さざ波が心地よい音を奏で るのどかな景色。 ○戦艦クサナギ・甲板   閑散とした戦艦は、敵の攻 撃を幾十にも受けたのか、 ボロボロである。   逆光でシルエットになって いる男・トシユキが、自分 のこめかみに銃口を向けて いる様子が見える。   傷だらけの兵士たちが次々 と倒れていくのが伺える。 トシユキ「……(恐怖を孕んだ 息づかいで)」   額からの血を浴びた瞳には 光がなく、絶望感で溢れて いる。   引き金に指をかけるトシユ キ。   そんなトシユキの前にやっ て来る男の姿が見える。ハ ットを被り、暑苦しいコー トを着用している男・マレ ノブは涼しい顔をして言う。 マレノブ「よぉ、一つ聞かせて  くれないか」   拳銃を持ったまま、マレノ   ブに視線を向ける。 マレノブ「……なぜ死ぬ?」 トシユキ「……皆、死んだ」 マレノブ「(自嘲気味に)あぁ、  死んだな。先の戦闘はひどい  もんだった。情報は敵に筒抜  け、作戦もクソもあったもん  じゃねぇ」 トシユキ「……」 マレノブ「参謀様は一体何をや  っておられたんだか」 トシユキ「……(何も言えず)」 マレノブ「だから、死ぬのか?」 トシユキ「……」   トシユキ、マレノブを絶望の   目で睨み付けたまま、引き金   を引く。   ――銃声が響いた。   銃口は空を向いている。   マレノブはがトシユキの手首   を捻り、拳銃の向きを変えた   のだ。 マレノブ「それで責任を取ったつ  もりか。参謀長」 トシユキ「……(悔しそうに)」   マレノブはトシユキから拳銃   を奪い、海へと投げ捨てた。 マレノブ「あんたが間抜けだから、  仲間が死んだ。それは変えよう  のない事実だ」 トシユキ「……」 マレノブ「だが、あんたは生きて  る」 トシユキ「……」 マレノブ「せっかく拾った命を、  なぜ捨てるんだ。生きろよ。生  きて、弔え。そして、奴らに思  い知らせろ。お前の正義を」 トシユキ「……あんたは?」 マレノブ「(笑みで)マレノブ」   マレノブ、トシユキに握手を   求める。 マレノブ「あんたを救う男だ」 ○タイトル 『孤高のシングラリティ』 ○戦艦クサナギ・操縦室   レーダーを確認しながら操縦し   ている乗組員たち。
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